|
7.エピローグ
「15年の歳月を与えられれば何か形のある仕事ができる」と考えて産業界から大学に着任して、上野原の大学の宿舎に住民票を移して市民税を払いはじめて15年、子供たちが巣立ったあとの住まいを上野原の木材を使って地元の大工さんに作ってもらって、少額ながら固定資産税を払いはじめて4年、この間、筆者は平成15年に上野原市都市計画審議会委員(平成17年から会長)、平成17年に観光審議会委員および環境審議会委員を拝命している。これらの委員会はいずれも諮問委員会で、問題を諮問された場合に審議するという意味で受身の委員会であるが、平成18年5月に「上野原の路線バス赤字問題を検討する委員会をスタートさせる。ついては関心のある市民の参加を求める」という上野原市の意向が隣組の回覧板で伝えられた際に、筆者は進んで参加を申し出たところ、路線バス問題検討委員会委員長を拝命するところとなった。
上野原市を走る路線バスには年間総額4700万円の赤字が出ており、中心市街地を走る黒字路線の黒字で補填してもなお年間2600万円の赤字が残り、このままでは市民のための公共交通が確保できないというので2600万円の補助金が市から交付されている。この間、補助を受けた路線バスが昼間ほとんど乗客を乗せない状況で時刻表通り毎日運行されているという現実が一方で生じている。財政が悪化している中、誰の目に見ても貴重な税金が無駄になっていることが明らかである。上野原の路線バスには明らかに『金属疲労に似た制度疲労』が生じている。しかも少子化・高齢化の波は最大の社会的チャレンジとして情け容赦なく山間地の上野原に襲いかかっている。何とか事態を打開し、レスポンドしなければならない。筆者は与えられた15年の大学勤務の最後の1年を過しているが、この「チャレンジ=課題へのレスポンス=応戦」を筆者自身のライフワークと受け止めて、「上野原のQOL向上を実現するための具体策」を見出したいと考えている。委員会は平成19年秋に結論を出すことを求められている。
上野原は「首都圏に最も近い田園都市」である。早春には鶯がまだ新芽が息づく前の木々の枝高く囀るのが観察され、初夏には蛍が飛ぶ。あゆ釣りの名所でもある。かつては多くの蝶々の愛好家を誘ったことでも有名である。山梨の名を全国に伝えている桃やぶどうは産しないが、この地の絹織物を支えた桑の木には今も「桑の実」ができ、ジャムが作れる。「命の水」が滴り出でくる採れたての野菜がある。平成8年に天皇・皇后両陛下が来訪された長寿の里、棡原(ゆずりはら)もある。
上野原町が合併する前の平成15年のことであった。初夏の頃に26回にわたって中心市街地だけでなくバス路線から奥に入り込んだ過疎地の集落で「地域住民懇話会」が開催された。毎回午後7時から9時まで、市長・助役・収入役・教育長・消防長・各課長が全員出席され、30〜40名の地区の住民との生真面目な対話が行われた。筆者は関係者の了解を得てそのうちの9回目から26回目までの18回に出席した。直接民主主義の現場に立つようなある種の感動を覚えたことが思い出される。筆者は1960年から1992年まで首都圏だけに住んできたが、行政との係わりは「個性を持たない1住民という立場」であった。「上野原は違う」というのがこの時の率直な印象で、この時に「首都圏に最も近い田園都市」というコンセプトを得た。今後とも、首都圏の生き馬の目を抜くような厳しいビジネスとコンクリートジャングルに疲れた人々のための田園都市としての可能性を視野にとらえながら、上野原のQOL向上のための具体的活動を続けて生きたいと考えている。(完)
参考文献
1.ヤマト運輸株式会社社史編纂委員会:『ヤマト運輸70年史』 資料編283ページ:ヤマト運輸株式会社:東京:1993年6月
2.総理府統計局:統計で見る県の姿1999:(財)日本統計協会:東京:1999年2月
3.総理府統計局:統計で見る県の姿2000:(財)日本統計協会:東京:2000年2月
4.飯田文弥・秋山 敬・笹本正治・齋藤康彦:『山梨県の歴史』:山川出版社:東京:1999年1月
5.U.S. NAVAL WAR COLLEGE :『SOUND MILITARY DECISION』: NEW PORT, R.I. : 1942
6.瀧澤三郎:『勝つための意思決定』:ダイアモンド社:東京:1991年1月
7.本間康次郎:平成12年度卒業研究『上野原における国道20号線の交通問題とその打開策』:帝京科学大学マネジメントシステム学科谷口研究室:平成13年1月26日
8.谷口文朗:『国道20号交通量実態調査結果と交通障害克服のための提案 その1−松留地区通過車輌データの分析―トンネルによって渦を流れに変えよう―帝京科学大学マネジメントシステム学科谷口研究室:平成13年4月10日
9.渡邉 強・谷口文朗:『国道20号交通量実態調査結果と交通障害克服のための提案 その2−A・B両地点の差異分析―街に入る車・街から出る車の動向と研究課題―帝京科学大学マネジメントシステム学科谷口研究室:平成13年6月22日
10.三木利博:平成14年度卒業研究『上野原商店街の交通障害』:帝京科学大学マネジメントシステム学科谷口研究室:平成15年1月23日
11.山梨日日新聞:『商工業活性化へ産学連携』:平成13年8月26日
12.阿部淳一・伊藤貴一・今 健太郎:平成15年度卒業研究『JR上野原駅の利用実態調査』:帝京科学大学マネジメントシステム学科谷口研究室:平成16年1月23日
13.名倉 優:平成14年度卒業研究『地域通貨とSILVIO GESELL』:
濱井健太郎:平成14年度卒業研究『地域通貨の研究』:
百生祥史:平成14年度卒業研究『地域通貨による地域活性化』:
永江知毅:平成14年度卒業研究『地域通貨の運用について』:
帝京科学大学マネジメントシステム学科谷口研究室:平成15年1月21日
14.加藤敏春:エコミュニティー ネットワーク 代表理事:エコミュニティー ネットワーク主催の研究会における報告:2006年2月
|